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工場・倉庫の浸水対策はどう考える?ハザードマップ・止水・設備配置・BCPの確認ポイント

工場や倉庫の建設を検討する際、地震や火災対策は比較的早い段階から検討されますが、浸水リスクについては後回しになりがちです。しかし、近年は集中豪雨や台風による河川氾濫、内水氾濫、高潮などにより、工場・倉庫でも浸水被害が発生するリスクがあります。
特に注意したいのが、建物そのものだけでなく、
「受変電設備が浸水して操業できない」
「倉庫内の商品が水に浸かる」
「排水が追いつかず敷地内に水が流入する」
「復旧まで数週間かかる」
といった、事業継続への影響です。工場・倉庫の浸水対策では、単に止水板を設置するだけでは十分ではありません。建設予定地の浸水リスクを確認したうえで、建物レベル、設備配置、敷地排水、出入口、保管方法、避難・復旧計画まで一体で検討する必要があります。本記事では、工場・倉庫を新築・増改築する発注者に向けて、浸水対策で確認しておきたいポイントを解説します。
工場・倉庫で想定される浸水リスク
浸水といっても原因は一つではありません。工場・倉庫の建設計画では、主に次のような水害リスクを確認します。
| 主な浸水リスク | 概要 |
|---|---|
| 洪水 | 河川が氾濫し、周辺地域へ水が流れ込む |
| 内水氾濫 | 大雨により下水道や排水施設の処理能力を超え、道路・敷地等に水があふれる |
| 高潮 | 台風などによる海面上昇で沿岸部が浸水する |
| 雨水流入 | 敷地勾配や道路との高低差により、雨水が建物へ流れ込む |
| 排水逆流 | 下水道等から排水管を通じて水が逆流する |
国土交通省では、洪水浸水想定区域について、想定最大規模の降雨により河川が氾濫した場合の浸水区域や想定浸水深、浸水継続時間などを公表しています。そのため、土地選定や基本計画の段階から、「この土地は水害リスクがあるか」ではなく、「どの種類の水害で、どの程度の浸水が想定されるか」まで確認することが重要です。
まずハザードマップで何を確認する?
工場・倉庫の浸水対策では、最初にハザードマップや浸水想定区域図を確認します。ただし、「ハザードマップで色が付いているかどうか」だけを見るのでは不十分です。発注者として確認しておきたいのは、次のような項目です。
| 確認項目 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 洪水 | 河川氾濫による想定浸水深 |
| 内水 | 集中豪雨時の内水氾濫リスク |
| 高潮 | 沿岸部で想定される高潮浸水 |
| 浸水深 | 0.5m、1m、3mなど、どの程度の水位が想定されるか |
| 浸水継続時間 | 水が引くまでどの程度かかる可能性があるか |
| 避難経路 | 周辺道路や避難場所も浸水しないか |
| 敷地高低差 | 道路・隣地と建設予定地の高さ関係 |
特に工場・倉庫では、浸水深だけでなく浸水継続時間も重要です。建物内部への浸水を抑えられても、敷地周辺が数日間冠水すれば、従業員が出勤できない、トラックが進入できない、原材料や製品を搬出できないといった問題が発生します。つまり、建物単体ではなく、物流・操業まで含めた立地リスクとして確認する必要があります。
浸水対策は「水を入れない」「重要設備を守る」「早く復旧する」で考える
工場・倉庫の浸水対策は、大きく3段階で考えると整理しやすくなります。
① 建物へ水を入れない
敷地や建物への浸水そのものを防ぐ対策です。
② 浸水しても重要設備を守る
想定以上の浸水が発生した場合でも、受変電設備や非常用電源など重要設備への被害を抑えます。
③ 被災後に早く復旧できるようにする
完全に浸水を防ぐことが難しい場合には、復旧しやすい建物・設備計画にしておくことも重要です。国土交通省と経済産業省がまとめた「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」でも、浸水リスクの低い場所への電気設備配置、建物内への浸水防止、設備室の防水、早期復旧などを組み合わせる考え方が示されています。
建物の床レベルを上げる
新築時に比較的検討しやすい対策が、建物の床レベルを高くすることです。例えば、道路面や敷地GLより1階床を高く設定することで、軽微な浸水時に建物内部へ水が流入するリスクを抑えられます。ただし、工場・倉庫の場合は単純に床を高くすればよいわけではありません。
床レベルを上げると、
- ・トラックバースとの高さ関係
- ・スロープ勾配
- ・フォークリフト動線
- ・搬入口の段差
- ・周辺道路との接続
- ・敷地造成費
などに影響します。特に物流倉庫では、大型車両の出入りが多いため、浸水対策と物流動線を同時に検討することが重要です。
敷地全体の嵩上げも選択肢
立地条件によっては、建物だけではなく敷地全体を嵩上げする方法もあります。敷地レベルそのものを高くすれば、建物や設備への浸水リスクを低減できる可能性があります。一方で、盛土量が増えると造成費が上昇します。
また、
「隣地へ雨水を流さないか」
「道路との高低差が大きくならないか」
「車両出入口の勾配が急にならないか」
といった点にも注意が必要です。土地購入後に嵩上げの必要性が判明すると、事業予算へ大きな影響を与えることがあります。そのため、用地取得前から浸水リスクと造成条件を確認することが理想です。
出入口からの浸水をどう防ぐ?
工場・倉庫で水が流入しやすい場所の一つが、建物の出入口です。
特に、
- ・シャッター
- ・搬入口
- ・人用出入口
- ・地下・半地下への入口
- ・ドックレベラー周辺
などは注意が必要です。代表的な浸水対策としては、止水板、防水扉、土のう、出入口の立ち上げなどがあります。
国土交通省のガイドラインでも、建物外周に「水防ライン」を設定し、そのライン上にある出入口や開口部について止水板、防水扉、マウンドアップ等を組み合わせて対策する考え方が示されています。ここで重要なのが、一つの入口だけ対策しても意味がないという点です。
正面入口に止水板を設置していても、搬入口や換気口、配管貫通部など別の経路から水が入れば、建物内部は浸水します。そのため、建物外周について、「水がどこから入る可能性があるか」を一周確認するような考え方が必要です。
換気口・開口部の高さにも注意
浸水経路として見落としやすいのが、換気口や給排気口です。人が出入りする扉より低い位置に換気口があると、そこから水が流入する可能性があります。そのため、浸水リスクが高い敷地では、
- ・換気口を高い位置へ設置する
- ・外部開口部へ止水対策を行う
- ・配管貫通部を適切に止水する
といった対策を検討します。国土交通省のガイドラインでも、換気口等の開口部を高い位置へ設けることや、配管貫通部への止水処理が具体的な対策として挙げられています。
受変電設備はどこに置く?
工場・倉庫で特に重要なのが、電気設備の浸水対策です。建物そのものが大きく損傷していなくても、受変電設備が水没すると、施設全体が停電し、操業・物流が停止する可能性があります。
特に注意したい設備には、
- ・高圧受変電設備
- ・分電盤・動力盤
- ・非常用発電機
- ・蓄電池
- ・防災設備電源
- ・通信設備
などがあります。浸水リスクの高い敷地では、こうした重要設備を、上階や屋上など、想定浸水深より高い位置へ配置する
ことが有効な対策になります。国土交通省・経済産業省のガイドラインでも、電気設備を上階へ設置することや、設備そのものを嵩上げする方法が示されています。
「キュービクルを屋外に置けばよい」とは限らない
工場・倉庫では、敷地内にキュービクル式高圧受電設備を設置することがあります。この場合も、単に空いている場所へ配置するのではなく、想定浸水深と設置高さを確認することが重要です。
例えば、浸水リスクのある場所へ地上設置する場合には、基礎を高くして設備を嵩上げする方法があります。一方、設備を高く設置すると保守点検性や構造、配線・配管ルートにも影響するため、設計初期に調整する必要があります。
非常用発電機も浸水すれば使えない
BCP対策として非常用発電機を設置していても、発電機そのものが浸水すれば使用できない可能性があります。
また、
「発電機は高い場所にあるが、燃料設備が浸水する」
「制御盤が低い位置にある」
「給電先の設備が冠水している」
といった場合も、期待した機能を確保できません。したがって、非常用電源については、発電機単体ではなく、燃料・制御・配線・給電先まで一連のシステムとして浸水対策を確認することが重要です。
排水設備と逆流対策を確認する
大雨時には、外部から水が流れ込むだけでなく、排水能力を超えることによって敷地内に水がたまる場合があります。
そのため、
- ・敷地排水計画
- ・雨水桝
- ・排水ポンプ
- ・雨水貯留施設
- ・排水管
- ・下水道からの逆流防止
なども確認します。国土交通省のガイドラインでは、下水道からの逆流を防止するバルブや、貯留槽のマンホールからの浸水防止なども対策例として示されています。
特に低地や内水氾濫リスクがある場所では、「河川が近くないから水害リスクは低い」とは限りません。局地的な豪雨によって排水能力を超える内水氾濫も想定しておく必要があります。
倉庫では「商品をどこに置くか」も浸水対策になる
倉庫では、建築的な対策だけでなく、保管方法も重要です。例えば、浸水リスクがある1階に高額商品や水濡れに弱い商品を大量に保管していると、比較的小さな浸水でも大きな損失につながります。
そのため、
- ・重要在庫を上階へ配置する
- ・パレット等で床から離して保管する
- ・水濡れに弱い商品を低所へ置かない
- ・重要書類・サーバー等を上階へ移す
といった運用面の対策も検討できます。特に既存倉庫では、建物全体の嵩上げが難しいため、保管方法や設備配置を変更することで被害を減らす考え方が重要になります。
工場では生産設備の復旧性まで考える
工場の場合、浸水による損失は建物よりも生産設備の方が大きくなることがあります。精密機械、制御盤、モーター、工作機械などが浸水すると、清掃・乾燥だけでは復旧できず、交換が必要になる可能性があります。
そのため、浸水リスクのある工場では、「設備を水から守る」だけでなく、「被災した場合にどの設備から復旧するか」まで整理しておくことが重要です。
例えば、
- ・制御盤を高い位置へ配置する
- ・モーター等を床面から上げる
- ・重要設備と一般設備を区分する
- ・交換部品の調達期間を確認する
- ・復旧優先順位を設定する
といった対策があります。
浸水対策は「最大浸水深だけ」で決めない
ハザードマップを見ると、想定浸水深が表示されています。
しかし、「想定浸水深が1mだから、すべて1m以上上げればよい」と単純に判断するのは適切ではありません。
実際の対策を決める際には、
- ・浸水発生確率
- ・浸水深
- ・浸水継続時間
- ・建物用途
- ・保管物・設備の重要度
- ・建設コスト
- ・復旧コスト
- ・事業停止による損失
などを総合的に検討します。すべての設備を完全防水するのは現実的ではない場合もあります。そこで、「どこまで浸水を防ぎ、どこからは被害を許容して早期復旧を目指すか」という考え方が重要になります。これは、工場・倉庫におけるBCP計画そのものでもあります。
浸水対策でコストが増えるポイント
浸水対策を後から追加すると、建設コストが大きく増える場合があります。
例えば、
- ・敷地・建物の嵩上げ
- ・止水板・防水扉
- ・防水区画
- ・電気設備の上階移設
- ・キュービクル基礎の嵩上げ
- ・排水ポンプ
- ・雨水貯留槽
- ・排水ルート変更
- ・非常用電源対策
などです。特に基本設計後に建物床レベルを変更すると、造成、構造、外構、スロープ、搬入口など広い範囲へ影響します。したがって、浸水対策はVE段階で後から考えるのではなく、用地選定・基本計画段階からコストへ織り込むことが重要です。
発注者が計画初期に確認したい浸水対策チェックリスト
| 確認項目 | 発注者が確認したい内容 |
|---|---|
| ハザードマップ | 洪水・内水・高潮のリスクを確認しているか |
| 浸水深 | 想定される浸水深を確認しているか |
| 浸水継続時間 | 操業・物流への影響を確認しているか |
| 敷地レベル | 道路・隣地との高低差を把握しているか |
| 1階床レベル | 想定浸水リスクを踏まえて設定しているか |
| 出入口 | シャッター・扉・搬入口の止水対策を検討しているか |
| 開口部 | 換気口・配管貫通部等から浸水しないか |
| 電気設備 | 受変電設備・分電盤等が浸水しない位置にあるか |
| 非常用電源 | 発電機・燃料・制御系を含めて対策されているか |
| 排水設備 | 雨水排水・逆流防止・排水ポンプ等を確認しているか |
| 商品・原材料 | 水濡れに弱い物品をどこに保管するか |
| 生産設備 | 制御盤・重要設備の浸水対策があるか |
| BCP | 浸水後の復旧手順・優先順位を整理しているか |
発注者自身が浸水解析や設備設計を行う必要はありません。重要なのは、「この土地でどの程度の浸水を想定し、その条件に対してどこまで対策する計画なのか」を設計者から説明してもらうことです。
CMが浸水対策で果たす役割
工場・倉庫の浸水対策は、建築設計だけでは完結しません。建築、造成、外構、給排水、電気設備、機械設備、生産設備、物流設備など複数の分野が関係します。例えば、建築側で床を高くした結果、物流側ではトラックバースや搬送設備との高さが合わなくなる可能性があります。電気設備を上階へ移せば、配線距離や設備スペース、構造荷重への影響も確認する必要があります。
CM(コンストラクションマネジメント)では、発注者の立場から、
- ・用地・ハザード条件の整理
- ・建物レベル・造成計画の確認
- ・電気・機械設備の浸水対策
- ・生産・物流設備との取り合い
- ・BCP上重要な設備の整理
- ・対策コストとリスク低減効果の比較
- ・設計者・施工会社間の調整
などを横断的に確認します。浸水対策では、単純に対策項目を増やすのではなく、「被害を防ぐためにどこへコストをかけるべきか」を発注者側から整理することが重要です。
工場・倉庫の浸水対策は、止水板を設置するだけではありません。発注者が特に押さえておきたいポイントは3つです。
① 用地選定・基本計画段階で浸水リスクを確認する
洪水だけではなく、内水氾濫・高潮・浸水深・浸水継続時間まで確認し、建物や物流への影響を把握します。
② 重要設備は「浸水させない」配置を検討する
受変電設備、非常用発電機、制御盤などが浸水すると、建物が使用できても操業できない可能性があります。設備の上階配置や嵩上げを早い段階で検討することが重要です。
③ 建物だけでなく事業継続まで考える
工場・倉庫では、商品・原材料・生産設備の損傷だけでなく、物流停止や操業停止も大きな損失になります。
そのため、「浸水しない建物」を目指すだけでなく、「浸水しても被害を抑え、早く復旧できる施設」にすることが重要です。
AGECでは、工場・倉庫・物流施設の建設において、発注者の立場からコンストラクションマネジメント(CM)を提供しています。用地条件やハザードリスクの整理、建築・設備計画の確認、生産・物流設備との取り合い、建設コストの検証、BCPを踏まえた施設計画など、プロジェクト全体を発注者側から支援します。
「浸水リスクのある土地で倉庫建設を検討している」
「どこまで浸水対策へコストをかけるべきか判断したい」
「受変電設備や生産設備の配置を含めてBCPを見直したい」
といった場合は、ご相談ください。
※本記事は2026年9月時点の公表情報等をもとに、工場・倉庫における浸水対策の一般的な考え方を解説したものです。実際に必要となる対策は、敷地の地形、想定浸水深、浸水継続時間、建物用途・構造、設備内容、自治体の条例・開発条件等によって異なります。具体的な計画については、最新のハザードマップ・浸水想定区域図等を確認したうえで、設計者、設備設計者、行政機関その他の専門家へご確認ください。





