AGECブログ 工場・倉庫の防火区画|シャッター・貫通部・設備配管で追加工事を防ぐ確認ポイント 2026.9.2 防火区画は「壁をつくれば終わり」ではない 工場や倉庫の設計では、「ここは防火区画になります」と説明を受けることがあります。防火区画は、火災が発生した際に、火炎や煙が建物内の別の部分へ急速に拡大することを抑えるため、壁や床、防火設備などによって建物内部を区画する考え方です。しかし、工場・倉庫では単純に壁を設けるだけで防火区画の検討が完了するわけではありません。 防火区画には、人やフォークリフトが通行する開口部、生産・物流設備、給排水配管、電気配管、空調・換気ダクト、通信ケーブルなど、さまざまなものが関係します。 例えば、防火区画の位置をコンベヤが横断する場合や、防火シャッターの降下位置に物流動線が重なる場合、設備計画と建築計画を一体で調整する必要があります。また、区画を配管やダクトが貫通する場合には、貫通部について適切な防火上の措置が必要になります。 本記事では、工場・倉庫建設における防火区画の基本的な考え方と、防火シャッター、設備配管、ダクト、電気・通信、生産・物流設備との取り合いで発注者が確認しておきたいポイントを解説します。 防火区画とは? 建築基準法令では、一定の建築物について、火災の拡大を防止するために建物内部を防火上有効に区画することが求められます。代表的な防火区画には、次のようなものがあります。 主な防火区画 基本的な考え方 面積区画 一定の条件に応じて建物を床面積ごとに区画する 竪穴区画 階段・吹抜け・昇降路など、上下階へ火災や煙が拡大しやすい部分を区画する 異種用途区画 異なる用途が混在する場合に、条件に応じて用途間を区画する ただし、防火区画は「工場なら○㎡ごと」「倉庫なら○㎡ごと」と一律に決まるものではありません。必要となる区画は、建物の用途、規模、階数、構造、耐火性能、内装、設備計画など複数の条件によって変わります。 発注者として重要なのは数値だけを覚えることではなく、「自社の計画では、どこに、なぜ防火区画が必要になるのか」を設計段階で確認することです。 工場・倉庫では防火区画と「運用」がぶつかりやすい 工場・倉庫では、一つのフロアを広く使いたいケースが多くあります。倉庫では保管効率や荷役効率を高めるために大空間を確保し、工場では生産ラインや大型設備を連続して配置することがあります。そのため、防火区画を設ける位置によっては、実際の施設運用と干渉する場合があります。 例えば、物流動線の途中に防火シャッターが設けられると、シャッター周辺のラックや荷物の配置に制約が生じます。生産ラインを区画が横断する場合には、コンベヤ、配管、排気ダクト、電気・制御配線などをどのように通すかも検討しなければなりません。つまり、防火区画は建築基準法への対応だけで決めるのではなく、生産・物流計画と一体で検討することが重要です。 防火シャッターは「設置すればよい」わけではない 工場・倉庫では、大きな開口を確保しながら防火区画を成立させるため、防火シャッターなどの防火設備を採用することがあります。ここで発注者が注意したいのが、完成後の運用です。設計・施工時には問題がなくても、倉庫の運用開始後にシャッターの降下位置へパレットや商品を置いたり、工場で設備や作業台を増設したりすると、火災時に正常に閉鎖できなくなる可能性があります。 そのため、防火シャッターの周辺では、「通常時に通行できるか」だけではなく、「火災時に確実に閉鎖できる状態を維持できるか」という視点が必要です。また、シャッターの閉鎖範囲を床面表示などで分かりやすくする、従業員へ保管禁止エリアを周知するなど、竣工後の運用ルールまで検討しておくことが重要です。 設備配管が防火区画を貫通するときは注意 工場・倉庫では、防火区画をさまざまな設備配管が横断します。給排水、電気配管、生産設備用ユーティリティなどが壁や床を貫通すると、その部分に隙間が生じます。防火性能を持つ壁や床を設けていても、貫通部分が適切に処理されていなければ、区画として求められる性能へ影響する可能性があります。 そのため、防火区画を配管等が貫通する場合には、法令や使用する工法・材料の条件に応じて適切な処理を行う必要があります。ここで注意したいのが、「隙間を何かで埋めればよい」というものではないという点です。配管の種類、区画の構造、貫通方法、使用する材料・認定工法などを確認し、適切な方法で施工する必要があります。 ダクトには防火ダンパー等が必要になる場合がある 空調・換気ダクトも、防火区画との取り合いで注意したい設備です。ダクトが防火区画を貫通すると、ダクト内部を通じて火炎や煙が別の区画へ拡大する可能性があります。そのため、防火区画を換気・空調等の風道が貫通する場合には、建築基準法令上の条件に応じて、貫通部またはその近接部分に防火設備を設ける必要があります。 一般的には防火ダンパーなどが使用され、火災時に所定の条件で閉鎖することで、区画を越えた火災の拡大を抑えます。ただし、「防火ダンパーを設ければ、それですべての法令対応が完了する」と一律に考えることはできません。 建築基準法だけでなく消防法令・条例の確認も必要 ダクトの用途や設備内容によっては、建築基準法だけでなく、消防法令や自治体の火災予防条例等についても確認が必要になる場合があります。例えば、厨房設備に接続する排気ダクトなどでは、建築基準法上の防火区画貫通への対応とは別に、消防法令や火災予防条例等に基づく防火上の措置が関係する場合があります。 また、工場では製造工程に伴う排気設備や集じん設備など、一般的な空調・換気設備とは異なる設備が設置されるケースがあります。扱う物質や設備の仕様によって必要となる安全対策は異なるため、設備ごとに関係法令や条例を確認することが重要です。 つまり、建築側の防火区画と、設備側に求められる防火・安全対策を別々に考えないことがポイントです。設計後半になって追加対策が必要だと判明すると、ダクトルートや設備仕様、機器配置の変更につながり、コストや工程へ影響する可能性があります。そのため、計画内容に応じて、設計者・設備設計者だけでなく、所轄消防署等への事前確認・協議も早い段階から検討することが重要です。 電気・通信配線も見落としやすい 配管やダクトだけでなく、電気・通信設備にも注意が必要です。工場・倉庫では、電源ケーブル、制御配線、LAN、防災設備、監視カメラなど、多数の配線が建物内を横断します。特にケーブルラックや配線ルートが防火区画を通過する場合には、貫通部について適切な防火処理が必要になります。 新築時には適切に施工されていても、竣工後に生産設備や物流設備を増設し、新しい配線を追加するケースがあります。このとき、新たに設けた貫通部の防火処理を見落とすと、当初確保していた区画性能へ影響する可能性があります。工場・倉庫では、新築時だけでなく設備増設・改修時にも防火区画を確認することが重要です。 生産設備・物流設備との干渉にも注意 工場・倉庫特有の問題が、生産設備・物流設備と防火区画の関係です。例えば、コンベヤが防火区画を横断する場合、設備が通ったままでは火災時に区画を適切に閉鎖できない可能性があります。 倉庫でも、自動搬送設備やラック、荷物の搬送ルートと防火シャッターの位置が重なる場合があります。そのため、「建築図面上では防火区画が成立している」だけでは十分ではありません。実際に生産・物流設備を配置した状態で、防火設備が正常に作動できるかを確認する必要があります。特に、生産設備や物流設備を発注者が別途発注する場合には注意が必要です。 建築会社が設備条件を十分に把握しないまま設計を進めると、施工段階や設備据付段階になって防火区画との干渉が判明する可能性があります。そのため、建築工事と発注者別途工事について、誰が防火区画との取り合いを確認するのかまで責任分界を明確にしておくことが重要です。 防火区画で追加コストが発生するのはなぜ? 防火区画そのものは、計画初期から適切に設計されていれば、必要な工事として予算へ反映できます。問題になるのは、設計後半や施工段階で調整不足が判明するケースです。例えば、防火シャッターの追加、配管・ダクトルートの変更、防火ダンパー等の追加、貫通部処理の追加、生産・物流設備の配置変更などが必要になれば、建築工事だけでなく電気・機械設備工事にも影響します。 特に工場・倉庫では、建築工事と生産・物流設備を別会社へ発注することがあります。 その場合、 「貫通穴を誰が開けるのか」 「防火処理を誰が施工するのか」 「施工後の状態を誰が確認するのか」 といった責任範囲が曖昧になりやすい点に注意が必要です。防火区画については、位置だけではなく、設備との取り合いと工事区分まで発注段階で整理することが追加費用や工程遅延を抑えるポイントになります。 竣工後の改修でも防火区画を確認する 防火区画は新築時だけの問題ではありません。工場では生産ラインの更新、倉庫ではラックや物流設備の変更など、完成後も施設は継続的に変化します。例えば、設備更新に伴って新しい配管や配線を区画壁へ通したり、ダクトルートを変更したり、防火設備の周囲へ機械やラックを配置したりすることがあります。 こうした小さな変更が積み重なることで、新築時とは異なる状態になる可能性があります。 そのため改修工事では、「変更する設備だけを見る」のではなく、「その変更が既存の防火区画や防火設備へ影響しないか」を確認することが重要です。特に長年使用している工場・倉庫では、現況が竣工図と異なる場合もあるため、必要に応じて現地確認を行ったうえで改修計画を進めます。 発注者が設計段階で確認したいポイント 防火区画は、図面上の区画位置だけではなく、建築・設備・運用を横断して確認する必要があります。 確認項目 発注者が確認したい内容 防火区画 どこに、どのような理由で区画が必要なのか 防火シャッター 物流・人の動線や設備と干渉していないか 配管 区画貫通部の処理方法が整理されているか ダクト 貫通部の防火対策に加え、設備用途に応じて消防法令・火災予防条例等も確認されているか 電気・通信 ケーブル等の貫通部が適切に処理される計画か 生産・物流設備 コンベヤ・ラック等と防火設備が干渉しないか 工事区分 開口・貫通処理・復旧を誰が施工するか明確か 運用 防火シャッター周囲を適切に管理できるか 将来改修 設備増設時にも防火区画を確認する仕組みがあるか 発注者自身が法令上の技術基準をすべて判断する必要はありません。重要なのは、防火区画が図面上にあることだけを確認するのではなく、実際の設備・工事区分・運用まで含めて成立しているかを専門家へ確認することです。 CMが防火区画の調整に有効な理由 工場・倉庫の防火区画は、建築設計だけでは完結しません。建築、電気設備、機械設備、生産設備、物流設備、場合によってはIT・制御設備など、複数の分野が関係します。それぞれの会社が自社の担当範囲だけを設計・施工すると、設備ルートが防火区画を貫通したり、防火シャッターと物流設備が干渉したりといった問題が後から判明する場合があります。 CM(コンストラクションマネジメント)では、発注者の立場から各工事の条件や責任分界を整理し、設計者、施工会社、生産・物流設備メーカーなどの調整を支援します。 特に工場・倉庫では、「建築工事と発注者別途工事の境界部分を誰が確認するのか」を明確にすることが重要です。防火区画を法令対応だけで終わらせず、設備・運用・将来改修まで含めて検討することで、設計変更や追加工事のリスクを抑えやすくなります。 防火区画は、単に建物内部を壁で区切れば完了するものではありません。防火シャッター、配管、ダクト、電気・通信配線、生産設備、物流設備など、さまざまな要素との調整が必要です。発注者が特に押さえておきたいポイントは次の3つです。 ① 防火区画の条件は建物ごとに異なる 用途、規模、階数、構造などによって必要な区画が異なるため、単純に床面積だけで判断しないことが重要です。 ② 貫通部と防火設備を確認する 壁や床が適切でも、配管・ダクト等の貫通部の処理や防火シャッターの作動に問題があれば、区画性能へ影響します。 ③ 建築基準法だけでなく設備側の関係法令も確認する ダクト等の設備内容によっては、消防法令や自治体の火災予防条例等への対応が必要になる場合があります。 工場・倉庫建設では、防火区画を「建築だけの問題」と考えず、建築・設備・生産・物流・運用を横断して確認することが重要です。 AGECでは、工場・倉庫・物流施設の建設において、発注者の立場からコンストラクションマネジメント(CM)を提供しています。建築・設備・生産設備・物流設備の条件整理、設計内容の確認、工事区分・責任分界の整理、コスト検証、施工会社や設備メーカーとの調整など、プロジェクト全体を発注者側から支援します。「防火区画と生産・物流設備の取り合いが整理できていない」「建築工事と別途設備工事の責任範囲を確認したい」といった場合は、ご相談ください。 ※本記事は2026年9月時点の建築基準法令・消防法令等に基づき、防火区画に関する一般的な考え方を解説したものです。必要となる防火区画、防火設備、貫通部の処理方法等は、建物の用途、規模、階数、構造、設備の種類・仕様、地域の条例その他の条件によって異なります。具体的な計画については、最新の法令・告示・認定条件・火災予防条例等を確認したうえで、設計者、設備設計者、確認検査機関、所轄消防署等へご確認ください。 次の記事 工場・倉庫のスプリンクラーはいつ必要?面積・階数・用途で変わる設置基準と設計上の注意点 前の記事 工場・倉庫の無窓階とは|消防設備の基準が厳しくなる理由と設計上の注意点 一覧へ戻る 人気の記事 設計、設計監理、施工管理、コンストラクションマネジメントの違いについて 「倉庫、工場建築のお金のこと」 建設の資金調達方法は?そのメリット・デメリットも! 本当に現在の予算では、理想的な建物が建てられるでしょうか? 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