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工場・倉庫の通信障害対策とは?WMS・生産管理・ネットワークを止めないBCP

建物や設備が無事でも「通信」が止まれば操業できない
工場・倉庫のBCPというと、耐震対策や非常用電源、備蓄などをイメージすることが多いかもしれません。しかし、現在の工場・物流施設では、通信・ネットワークも事業継続に欠かせないインフラになっています。
例えば倉庫では、建物やラックに問題がなく、フォークリフトも使用できる状態でも、WMS(倉庫管理システム)が利用できなければ、
- ・入荷情報を確認できない
- ・商品の保管場所が分からない
- ・ピッキング指示を出せない
- ・在庫情報を更新できない
- ・出荷処理ができない
といった問題が発生する可能性があります。工場でも、生産管理システムやネットワーク、制御システムが停止すれば、設備そのものに損傷がなくても生産を継続できない場合があります。
内閣府の「事業継続ガイドライン」でも、事業継続においてバックアップシステムの確保や情報セキュリティの強化などが重要な要素として示されています。
工場・倉庫のBCPでは、電気・水と同様に「通信が止まった場合にどうするか」を事前に検討しておくことが重要です。
通信障害は地震だけで起こるわけではない
通信障害対策というと、大規模地震による通信回線の断絶を想定しがちですが、実際にはさまざまな原因が考えられます。
例えば、
- ・地震・台風・豪雨などによる通信設備の被害
- ・停電によるルーターやネットワーク機器の停止
- ・通信事業者側の障害
- ・光回線などの物理的な断線
- ・サーバー障害
- ・ネットワーク機器の故障
- ・クラウドサービスの障害
- ・サイバー攻撃
- ・システム更新時のトラブル
などです。特に工場では、IoT化や自動化によって生産設備がネットワークへ接続される機会が増えています。
経済産業省の「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」でも、工場のIoT化・自動化に伴ってネットワーク接続が増加し、サイバーセキュリティ上のリスクが高まっていることが指摘されています。
そのため通信BCPでは、自然災害だけではなく、設備故障やサイバーリスクを含めて通信・情報システムが利用できなくなる状況を想定する必要があります。
最初に「止まると操業できないシステム」を洗い出す
通信BCPで最初に行いたいのは、回線を増やすことではありません。
まず、「どのシステムが止まると、どの業務が止まるのか」を整理します。
倉庫で重要になりやすいシステム
- ・WMS(倉庫管理システム)
- ・在庫管理システム
- ・ハンディターミナル
- ・バーコード・RFIDシステム
- ・自動倉庫制御システム
- ・コンベヤ・仕分け設備
- ・AGV・AMR管理システム
- ・配車・バース管理システム
- ・ERPとの連携
- ・インターネット・電話
工場で重要になりやすいシステム
- ・生産管理システム
- ・MES(製造実行システム)
- ・ERP
- ・設備監視システム
- ・生産設備の制御ネットワーク
- ・品質管理システム
- ・トレーサビリティシステム
- ・サーバー・クラウドサービス
- ・社内ネットワーク
- ・インターネット・電話
すべてのシステムを同じレベルで保護する必要があるとは限りません。「停止すると安全に関わる」「数分の停止でも生産に影響する」「数時間なら手作業で代替できる」といったように、業務への影響度で分類することがポイントです。
「ネットにつながらない」と「システムが使えない」は分けて考える
通信障害対策で見落としやすいのが、障害箇所の違いです。例えばWMSが利用できない場合でも、原因としては、
① 外部通信回線が停止している
② 建物内LAN・Wi-Fiが停止している
③ サーバーが停止している
④ クラウドサービス側に障害がある
⑤ 電源が停止している
など、さまざまなケースがあります。
国土交通省の「業務継続のための官庁施設の機能確保に関する指針」でも、通信・情報設備について、外部通信回線、構内情報通信網、端末、電子メール、インターネットなどを分け、それぞれ停電時や外部通信網途絶時の対応を確認する考え方が示されています。
工場・倉庫でも同様に、外部回線 → 建物内ネットワーク → サーバー → 端末 → 生産・物流設備という一連の経路を確認する必要があります。どこか一つだけ冗長化しても、別の箇所が単一障害点になっていれば、システム全体が停止する可能性があります。
通信回線は「2回線あれば安心」とは限らない
BCP対策として、インターネット回線を2回線契約する方法があります。しかし、単純に契約数を増やせば通信障害対策になるとは限りません。例えば2回線を契約していても、
- ・同じ通信事業者
- ・同じ建物引込経路
- ・同じ通信局
- ・同じ配管・ケーブルルート
などを使用していれば、一つの災害や事故によって同時に停止する可能性があります。
そのため冗長化を検討する際は、
- ・通信事業者
- ・回線方式
- ・建物への引込ルート
- ・構内配線ルート
- ・ネットワーク機器
などを確認します。重要なのは「回線数」ではなく「同時に停止しにくい構成になっているか」です。
有線回線が停止した場合の代替通信も考える
大規模災害では、有線通信回線そのものが利用できなくなる可能性があります。そのため重要業務については、別方式の通信手段も検討します。
例えば、
- ・モバイル回線
- ・モバイルルーター
- ・スマートフォンのテザリング
- ・衛星通信
- ・災害時用通信機器
などです。ただし、モバイル通信についても、大規模災害時には基地局の被災や通信集中によって利用しにくくなる可能性があります。したがって「光回線が止まったらスマートフォンを使えばよい」と単純に考えるのではなく、重要度の高い業務について複数の代替手段を検討しておくことが重要です。
国土交通省の業務継続計画でも、災害発生時には通信設備の被害状況を把握したうえで、障害復旧と「代替通信手段」を検討する手順が定められています。
通信設備にも非常用電源が必要
前回の記事で解説した非常用電源とも密接に関係するポイントです。外部の通信回線が正常でも、建物内のネットワーク機器に電源がなければ通信できません。
確認したいのは、
- ・ルーター
- ・ONU
- ・ファイアウォール
- ・ネットワークスイッチ
- ・Wi-Fiアクセスポイント
- ・サーバー
- ・NAS
- ・WMS・MES関連機器
- ・電話設備
などです。重要なネットワーク機器については、UPS(無停電電源装置)や非常用発電機から電力を供給する方法があります。ただしUPSは一般的に長時間の事業継続を目的としたものではなく、瞬停対策やシステムの安全停止、非常用電源への切替までの電源確保など、設備条件に応じて役割を決めます。
非常用発電機が設置されていても、ネットワーク機器が非常用電源系統へ接続されていなければ使用できません。「発電機があるか」だけでなく、「どの通信設備まで電源が供給されるか」まで確認することが必要です。
WMSが停止したとき倉庫業務をどう続けるか
物流倉庫では、WMSの停止が大きな事業リスクになります。特に自動化が進んだ倉庫では、
WMS
↓
WCS・WES
↓
自動倉庫・コンベヤ・AGV
といった複数のシステムが連携している場合があります。一つのシステム障害が物流設備全体へ影響する可能性があるため、
- ・WMS停止時に在庫位置を確認できるか
- ・入出荷データを一時的に記録できるか
- ・手作業による出荷が可能か
- ・復旧後にデータを正しく反映できるか
- ・自動倉庫を安全停止できるか
などを事前に確認しておきます。特に重要なのは「手作業へ切り替えればよい」と決めるだけで終わらせないことです。
実際に紙伝票やExcel等へ切り替える場合、誰が・どの情報を・どこから取得し・復旧後にどのようにシステムへ戻すのかまで決めておかなければ、在庫差異や誤出荷につながる可能性があります。
工場ではITとOTの両方を考える
工場の通信障害対策では、「IT」と「OT」の違いも重要です。ITは、ERP、メール、ファイルサーバーなど一般的な情報システムを指します。一方OT(Operational Technology)は、生産設備や制御装置など、工場を実際に動かすためのシステムです。
近年は、
- ・生産管理システム
- ・MES
- ・PLC
- ・設備監視システム
- ・IoTセンサー
などがネットワークを介して連携するケースが増えています。経済産業省も、工場システムでは安全確保、事業・生産継続、品質、納期などを守る観点から、サイバーセキュリティ対策を経営課題として検討する必要性を示しています。
そのため、オフィス側のネットワークだけでなく、生産設備側のネットワークが停止した場合に何が起きるかもBCPに含める必要があります。
サーバー・データのバックアップも確認する
通信回線を復旧できても、サーバーやデータが失われていれば業務を再開できません。
そのため、
- ・データバックアップ
- ・バックアップ保存場所
- ・クラウド利用
- ・サーバー冗長化
- ・復旧手順
- ・復旧に必要な時間
なども確認します。特に注意したいのが、バックアップを取得しているだけで安心しないことです。
実際に障害が発生した場合、
「どの時点のデータまで戻せるのか」
「何時間でシステムを復旧できるのか」
が事業継続上重要になります。BCPでは、重要業務ごとに許容できる停止時間やデータ損失の範囲を整理し、それに合わせてバックアップ方法を検討します。
建物計画の段階で通信BCPを考える
通信障害対策はIT部門だけの仕事と思われがちですが、建物計画とも関係があります。
新築・改修時には、
- ・通信回線の引込位置
- ・通信機械室・サーバー室の位置
- ・構内LANのルート
- ・通信配管のルート
- ・非常用電源
- ・UPS設置スペース
- ・空調
- ・浸水対策
などを確認します。例えばサーバー室を地下や浸水リスクのある低層階に配置すると、水害時に設備が被災する可能性があります。また、メインとバックアップの通信ケーブルを同じ配管へ通してしまえば、一か所の損傷によって両方が停止する可能性があります。
国土交通省の機能継続に関する考え方でも、設備システムについて並列冗長化や分散化を基本とし、一部の不具合が全体の機能喪失へ波及しにくい構成を検討する考え方が示されています。
そのため、通信BCPはシステム設計と建築・設備設計を一体で検討することが重要です。
発注者が確認したい通信BCPチェックポイント
工場・倉庫の通信環境を見直す場合は、次の項目を確認します。
- ・重要業務に必要なシステムを把握している
- ・WMS・MES等が停止した場合の影響を整理している
- ・外部通信回線の構成を把握している
- ・回線障害時の代替通信手段を決めている
- ・構内LAN・Wi-Fiの重要機器を把握している
- ・通信機器へ非常用電源を供給できる
- ・UPSの対象設備と運転可能時間を把握している
- ・サーバー・データのバックアップを行っている
- ・システム復旧手順を整理している
- ・WMS停止時の入出荷方法を決めている
- ・生産管理システム停止時の代替運用を決めている
- ・ITだけでなくOTネットワークも確認している
- ・通信設備の保守会社・ベンダーの緊急連絡先を整理している
- ・定期的に通信障害を想定したBCP訓練を行っている
内閣府や国土交通省のBCP関連資料でも、BCPは作成して終わりではなく、訓練や検証を通じて継続的に見直すことが重要とされています。
CMを活用して建物・設備・ITの条件を整理する
工場・倉庫の通信BCPでは、IT担当者だけでは判断できない問題があります。
例えば、「バックアップ回線を追加したい」と考えても、建物への引込ルートや配管スペースを確認する必要があります。
サーバーや通信設備を増強する場合には、電源容量、UPS、非常用発電機、空調設備なども関係します。また、自動倉庫や生産設備では、建築・電気・通信・設備メーカー・システムベンダーなど複数の関係者が関わります。
CM(コンストラクションマネジメント)では、発注者の立場から、
- ・建物・電気・通信条件の整理
- ・通信設備の設置スペース・ルート確認
- ・非常用電源との連携確認
- ・生産・物流設備との責任分界整理
- ・設計者・施工会社・システムベンダーとの調整
- ・改修工事費・工程の確認
- ・稼働中施設での段階的な更新計画
などを支援できます。特に既存工場・倉庫では、設備増設やシステム更新を繰り返した結果、現在のネットワーク構成が竣工図と異なっていることもあります。BCPを見直す際には、まず現状を正確に把握することが重要です。
現在の工場・倉庫では、通信・ネットワークは電気や水と同様に事業継続を支える重要なインフラです。建物や生産・物流設備に損傷がなくても、WMS、生産管理システム、ネットワーク、サーバーなどが停止すれば操業できない可能性があります。
発注者が押さえておきたいポイントは次の3つです。
① 重要システムと業務の関係を把握する
「何が止まると、どの業務が止まるのか」を整理します。
② 通信経路の単一障害点を確認する
外部回線だけでなく、構内LAN、電源、サーバー、端末まで確認します。
③ 障害時の代替運用まで決めておく
バックアップ回線を用意するだけでなく、WMSや生産管理システムが利用できない場合の業務手順を決めておくことが重要です。
BCPでは「システムを止めない」対策だけでなく、「止まった場合でも重要業務を継続し、できるだけ早く復旧できる状態をつくる」ことが重要です。
AGECでは、工場・倉庫・物流施設について、発注者の立場からコンストラクションマネジメント(CM)を提供しています。通信・ネットワークそのもののシステム構築だけでなく、通信設備の配置、電源・非常用電源、設備スペース、配線ルート、生産・物流設備との取り合いなど、建物側から必要となる条件を整理し、設計者・施工会社・設備会社・システムベンダーとの調整を支援します。
「BCPを踏まえて工場・倉庫の通信インフラを見直したい」「WMSや生産管理システムを含めて建物側のバックアップ対策を整理したい」といった場合は、ご相談ください。
※本記事は2026年8月時点の一般的な工場・倉庫における通信障害対策・BCPの考え方を解説したものです。必要となる通信回線、ネットワーク構成、バックアップ、非常用電源、情報セキュリティ対策等は、施設用途、業務内容、システム構成、求める事業継続レベルによって異なります。具体的な計画については、情報システム担当者、通信事業者、システムベンダー、電気設備設計者、サイバーセキュリティ等の専門家と協議のうえ検討してください。





