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既存工場・倉庫の地震対策改修とは?耐震診断だけでは足りない設備・非構造部材の確認

耐震診断をしていれば地震対策は十分なのか
既存の工場や倉庫で地震対策を検討する際、まず候補になるのが「耐震診断」です。耐震診断は、建物の構造上の耐震性能を把握し、必要に応じて耐震補強を検討するための重要な手段です。しかし、工場・倉庫の事業継続という観点では、耐震診断だけで地震対策が完了するわけではありません。
大規模地震では、建物そのものが倒壊しなくても、
- ・天井や外壁が落下する
- ・生産設備が移動・転倒する
- ・ラックが変形する
- ・配管やダクトが破損する
- ・受変電設備が停止する
- ・シャッターが開かなくなる
といった被害によって、操業や出荷を継続できなくなる可能性があります。国土交通省も、平成28年熊本地震では、建築物が倒壊・崩壊に至らなくても、構造体の部分的な損傷や非構造部材の落下などによって、地震後の機能継続が困難になった事例があったとしています。
そのため既存工場・倉庫の地震対策改修では、構造体・非構造部材・建築設備・生産設備・物流設備を一体的に確認することが重要です。
耐震診断で主に確認するのは「建物の構造」
耐震診断では、一般に柱・梁・耐力壁など、建物を支える構造体の耐震性能を評価します。特に旧耐震基準で設計された建物や、長期間使用している施設では、耐震診断によって現在の性能を把握することが重要です。
診断結果によっては、
- ・鉄骨ブレースの追加
- ・耐震壁の増設
- ・柱・梁の補強
- ・接合部の補強
- ・基礎の補強
などの耐震改修を検討します。ただし、こうした構造補強は主として建物の安全性を高めるための対策です。工場や倉庫では、その内部にある設備や部材まで自動的に安全になるわけではありません。そこで次に確認したいのが「非構造部材」と「設備」です。
非構造部材とは?建物が無事でも操業できなくなる原因
非構造部材とは、柱や梁など主要な構造体ではないものの、建物を構成する部材を指します。
例えば、
- ・天井
- ・外壁
- ・ガラス
- ・間仕切り
- ・扉
- ・シャッター
- ・照明器具
などです。国土交通省は、熊本地震で避難所として指定されていた建築物でも非構造部材の落下などにより機能継続が困難になった事例があったことを踏まえ、官庁施設における非構造部材の耐震設計を明確化しています。
工場・倉庫でも同様に、構造体に大きな損傷がなくても、天井材や照明が落下すれば作業区域へ立ち入れません。
シャッターが変形すればトラックの入出庫ができなくなり、外壁が浮いていれば周辺への落下リスクから立入制限が必要になる場合があります。
そのため耐震改修では、構造だけでなく、高所に設置された部材や日常の操業に直結する部材を優先して確認することが重要です。
工場では生産設備・配管・設備基礎も確認する
工場の地震対策では、生産設備が大きなポイントになります。建物が安全でも、生産機械が使用できなければ事業は再開できません。確認したい主な項目は次のとおりです。
| 点検対象 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 生産機械 | 転倒・移動防止、アンカー固定 |
| 設備基礎 | 強度、ひび割れ、設備との固定 |
| 架台 | 変形、接合部、ボルト |
| 配管 | 耐震支持、接続部、変位吸収 |
| ダクト | 吊り材、支持方法、落下防止 |
| 制御盤 | 転倒防止、固定状態 |
| タンク | アンカー、支持架台、配管接続部 |
特に注意したいのが、設備本体と建物設備の「接続部分」です。機械本体を強固に固定していても、接続された配管や電気ケーブルに十分な変位吸収能力がなければ、地震時に接続部が損傷する可能性があります。
危険物を扱う施設では、さらに慎重な対策が必要です。消防庁も、危険物施設では地震による二次災害の防止と早期の事業再開の双方を考慮した震災対策を求めています。
倉庫ではラック・積荷・自動化設備を確認する
倉庫では、建物の耐震性能と同じくらい、ラックや物流設備の安全性が重要です。特に大型物流倉庫では高層ラックや自動倉庫を採用していることがあり、地震によるわずかな変形でも物流機能に影響する場合があります。
確認したい項目には、
- ・ラックのアンカー固定
- ・支柱・ブレースの状態
- ・ラック同士の連結
- ・積荷の落下防止
- ・パレットの保管方法
- ・コンベヤの固定
- ・垂直搬送機
- ・自動倉庫のラック・レール
- ・AGV・AMR設備
- ・スプリンクラー配管との干渉
などがあります。また、倉庫ではラック配置を変更した後、その周辺の防災設備や避難動線との整合性が変わっているケースもあります。「建物完成時には問題がなかった」場合でも、長年の運用中に設備やレイアウトが変更されていないかを確認することが重要です。
建築設備の耐震対策も見落とせない
工場・倉庫の操業には、電気・給排水・空調・通信などの建築設備が欠かせません。例えば受変電設備が停止すれば、建物そのものに損傷がなくても生産や物流は止まります。地震対策改修では次の設備も確認します。
電気設備
- ・受変電設備の固定
- ・分電盤・制御盤の転倒防止
- ・ケーブルラックの耐震支持
- ・非常用発電設備
- ・燃料供給設備
給排水設備
- ・配管の耐震支持
- ・接続部の変位吸収
- ・受水槽・高架水槽の固定
- ・排水設備の損傷リスク
空調・換気設備
- ・空調機器の固定
- ・ダクトの耐震支持
- ・吊り機器の落下防止
- ・排気設備
設備対策では「固定する」だけでなく、地震による建物の揺れや変形に追従できるよう、接続部や支持方法も含めて検討します。
何から改修する?優先順位は「危険度×事業影響」で考える
既存工場・倉庫では、すべてを一度に耐震改修することが難しい場合があります。そこで重要なのが優先順位です。単純に「古い設備から改修する」のではなく、事故につながる可能性と停止した場合の事業への影響を組み合わせて判断します。
例えば次のように整理できます。
| 優先度 | 代表的な対象 |
|---|---|
| 最優先 | 落下物、危険物設備、避難経路、防災設備 |
| 高 | 受変電設備、主力生産設備、自動倉庫 |
| 中 | 空調・給排水、搬送設備、シャッター |
| 個別判断 | 内装、非主要設備、軽微な部材 |
さらに、「壊れた場合に交換部品がすぐ届くか」という視点も必要です。特注設備や海外製機械、長納期の電気機器などは、一度損傷すると復旧に数か月かかる可能性があります。
発生確率だけではなく、復旧時間まで含めてリスクを評価することが重要です。
稼働中の工場・倉庫では改修方法にも注意する
既存施設の地震対策改修で難しいのは、施設を使用しながら工事を行うケースです。
例えば、
- ・生産ラインを止められない
- ・出荷業務を継続する必要がある
- ・フォークリフトが常時走行している
- ・夜間・休日しか工事できない
- ・粉じんや火気を発生させられない
といった制約があります。この場合、一括して工事するのではなく、
- ・エリアごとに工事する
- ・生産停止日に集中施工する
- ・仮設設備を設ける
- ・物流動線を一時変更する
- ・工程を複数期に分ける
などの方法を検討します。地震対策改修では「何を補強するか」だけでなく、操業をどこまで維持しながら実施できるかが事業者にとって重要な判断材料になります。
改修前に確認したいチェックリスト
既存工場・倉庫の地震対策を検討する際は、少なくとも次の項目を確認します。
- ・建物の建築年と耐震性能を把握している
- ・必要に応じて耐震診断を実施している
- ・天井・外壁など非構造部材を確認している
- ・生産設備・ラックの固定状態を確認している
- ・設備基礎やアンカーを確認している
- ・配管・ダクトの支持方法を確認している
- ・受変電設備や制御盤の固定状態を確認している
- ・非常用電源の対象設備を整理している
- ・危険物・ガス設備の地震対策を確認している
- ・高所設備の落下リスクを確認している
- ・地震後の点検・再稼働手順を決めている
- ・復旧に時間がかかる設備を把握している
- ・改修工事中の操業方法を検討している
特に、建築後に生産設備やラックを増設・移設している施設では、竣工当初の図面だけでは現在の状態を把握できない場合があります。現況調査を行ったうえで改修範囲を決めることが重要です。
CMを活用して施設全体の地震リスクを整理する
既存工場・倉庫の耐震改修では、
- ・建築構造
- ・非構造部材
- ・電気設備
- ・空調・給排水
- ・生産設備
- ・物流設備
- ・防災設備
など複数分野の専門家が関係します。そのため、一つの専門業者だけに依頼すると、その会社の工事範囲以外が十分に確認されない可能性があります。CM(コンストラクションマネジメント)では、発注者の立場から、
- ・現況・既存図面の整理
- ・調査範囲の検討
- ・耐震診断結果と設備リスクの整理
- ・改修優先順位の検討
- ・設計者・施工会社・メーカーとの調整
- ・建築・設備間の責任分界確認
- ・改修工事費・工程の確認
- ・稼働中施工の計画
- ・BCPを踏まえた段階改修
などを支援できます。限られた予算の中ですべてを一度に改修するのではなく、施設のリスクと事業への影響を整理しながら優先順位を決めることがポイントです。
既存工場・倉庫の地震対策では、耐震診断は重要な第一歩です。しかし、「耐震診断を実施した=施設全体の地震対策が完了した」わけではありません。地震後も事業を継続・早期再開するためには、構造体・非構造部材・建築設備・生産設備・物流設備を横断して確認する必要があります。
特に、
- ・天井や外壁の落下
- ・機械やラックの転倒・移動
- ・配管・ダクトの破損
- ・受変電設備の停止
- ・防災設備の機能低下
は、建物が倒壊しなくても操業停止につながる要因です。既存施設では、危険性と事業への影響、復旧に必要な期間を踏まえて優先順位を設定し、計画的に改修を進めることが重要です。
AGECでは、既存の工場・倉庫・物流施設について、発注者の立場からコンストラクションマネジメント(CM)を提供しています。耐震診断だけでなく、非構造部材、建築設備、生産設備、物流設備を含めた改修範囲の整理、優先順位の検討、設計者・施工会社との調整、工事費・工程の確認、稼働中の段階施工まで、施設の状況に応じて支援します。
「耐震診断は実施したが設備対策まで確認できていない」「操業を続けながら地震対策改修を進めたい」といった場合は、ご相談ください。
※本記事は2026年8月時点における一般的な既存工場・倉庫の地震対策改修の考え方を解説したものです。必要となる耐震診断・補強・設備対策は、建築年代、構造、用途、設備内容、立地、既存建物の状態等によって異なります。また、法令上必要となる手続きや基準も個別条件により異なります。具体的な改修計画については、建築士、構造設計者、設備技術者、施工会社その他の専門家による現況調査・診断を行ったうえで判断してください。





